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< TRA NOI Column >
■Laboratori Scala Ansaldo / ラボラトーリ スカラ アンサルド
 〜もう一つのスカラ座〜
 (レポート:佐藤 陽子 / 2005年6月)
 3年にも及ぶ大改修工事を終え、昨年の12月7日、新生スカラ座が蘇ったことは、既に御存じの方も多いかと思います。こけら落としの演目はアントニオ・サリエリの「エウローパ リコノシュータ/見い出されたヨーロッパ」。1778年のスカラ座創立時と同じ演目が選ばれました。

 コンペを勝ち進み、この栄えある改修工事を任されたのは、スイス人の建築家マリオ・ボッタ。
 ボッタは、既存のファサードはそのままに、全体の印象を変えることなく、しかし劇場の舞台部分は大胆に取り壊し、奥にはステージサービスやオフィスなど近代的な機能面を充実させた楕円形型の建物を乗せました。(スカラ座を正面から見た時に、博物館の奥に顔を覗かせている建物です)
 更に地下18mの奈落を掘り、2種類の舞台セットをそっくりそのままの大きさで、地下と舞台上部に用意できるようにしたのです。そして、ホール内の床は音響効果を最大限に引き出す為に、ハイテク素材、木材などを多重(12層)に敷き詰めました。
ミラノ・スカラ座 外観 ミラノ・スカラ座 外観
 建物の内装の装飾を任されたのは、エリザベッタ・ファッブリ。女性の建築家です。
 室内のカーペットをすべて取り払い、1778年のスカラ座誕生時に近いテラコッタのフロアを再現し、照明機具や座席なども当時と同様、古き良きヨーロピアンデザインで統一しました。その一方で、座席後ろには同時通訳付きの小型ディスプレイを設置するなど最新設備を導入し、国内外で話題となると共に、高い評価を得ました。 ハイテクと伝統美の融合は、まさにイタリア的とも言えますし、世界中の建築家の現在の課題とも言えるかもしれません。

 さて、前置きが長くなりましたが、この新生スカラ座での公演には、言うまでもなく、これらの最新設備を踏まえた全く新しい演出や舞台美術が必要になります。そこで、今まであちらこちらに散らばって分業していた演出、舞台美術、衣装などの工房を一ケ所にまとめる構想が生まれました。
 「ラボラトーリ スカラ アンサルド」という巨大工房の誕生です。

 今回、ツアーのお誘いを受けてこの工房を見学する機会を得ました。
 すごく面白かったのですが、残念ながら写真撮影は一切禁止。未公開の舞台美術、衣装を作っているわけですから、当然とも言えますが・・・。それで今回は、多少イラストで補いながらのレポートになりました。
 
ミラノ、スカラ座の舞台裏を、ぜひみなさんにもお伝えしたいと思います。
Laboratori Scala Ansaldo / ラボラトーリ スカラ アンサルド

 最新設備につり合うだけの舞台美術を製作できるスペースの確保などを目的として、改修工事着工の約一年前、2001年2月20日、ミラノのポルタジェノバ付近にある旧製鉄工場跡地をスカラ座が買い取りました。
 2万平方メートルにも及ぶこの巨大な集合工房は、元の製鉄工場の持ち主であるアルベルト・アンサルドの名前をとり「ラボラトーリ スカラ アンサルド」となりました。
ラボラトーリ スカラ アンサルド ラボラトーリ スカラ アンサルド 外観
 この工房は、大きく3つのパビリオンに分かれて、それぞれのエキスパートたちが日々製作活動に励んでいます。現在はスカラ座の舞台だけに留まらず、他の劇場の舞台美術や衣装、映画のセットなどもここで手掛けているそうです。

 演出と脚本部門のパビリオンは、演出家で映画監督であったルキーノ・ヴィスコンティの名前から「ヴィスコンティ・パビリオン」、舞台美術全般の製作部門は、舞台美術家ニコラ・ベノイスの名から「ベノイス・パビリオン」、舞台衣装の製作と管理部門は、著名なコスチュームデザイナーのルイジ・サぺッリ(またの名をカランバ)から「カランバ・パビリオン」とそれぞれ名付けられました。
ラボラトーリ スカラ アンサルド 案内看板
Padiglione Benois /ベノイス・パビリオン

 このパビリオンのドアを開けた瞬間、まず、あまりの広さに驚きました。
 もともとイタリアの鉄道車両等の鉄工所だった建物だということを考えれば、納得できる広さではあるのですが、私はこのような工房を今まで見たことがなかったので、やはり圧倒されてしまいます。
 さて、舞台美術と一口に言いましても、実際の舞台では様々なものが必要になってきます。
 ここでは大きく、舞台の背景画を描くScenografia(シェノグラフィア)、大工などの仕事を手掛けるFalegnameria(ファレニャメリア)、ポリウレタンや発泡スチロールなどから、象徴的なオブジェを作りだすScenoplastica(シェノプラスティカ)の3つに分かれて作業をしています。
 シェノグラフィアのスペースは中でも一番広く、舞台の背景画が何枚も大きく広げられた床は、さながら絵画の畑という感じです。
 初めに画家が紙に背景の原画を描き、拡大したものを床に張られた布に描いていきます。
 布には1メートル間隔で印の糸が通されていて、原画の1平方センチメートルを1平方メートルに拡大し、できあがりに糸を抜くという昔ながらの方法が現在も使われています。
 スケール(定規やコンパス)や筆などもすべてが大きく、その道具を見ているだけで楽しいです。上から作業を覗いてみると、物語の小人たちが大きなコンパスや鉛筆で遊んでいるようにも見えます。
 私が訪れた時には、スカラ座6月公演「La Boheme / ボエーム」のための背景画の仕上げ作業と、アルチンボルディ劇場6月公演「Carmen / カルメン」のための背景画を描き始めたところでした。

シェノグラフィア
ファレニャメリア  ファレニャメリアの部屋では、主に木材を使った舞台設備、大道具が作られています。
 ここでも設計士が作った縮小模型を元に、職人たちの手作業により忠実に実物大に再現していきます。室内は、木を削った良い香りがします。
 通常は、出来上がったものをパーツごとに運び、劇場で組み立てるようですが、ここでは既に組み立てられた状態で劇場に運ぶことも可能とのことです。驚きました。

 そして、シェノプラスティカ(Senoplastica)。私も初めて聞く言葉でしたが、どうやら高圧縮の発泡スチロールで作る大小さまざまな舞台装飾や模型の事のようです。大きいものでは高さ10メートルもあるような大理石の像の模型もありました。
 板状の発泡スチロールを張り合わせたり、裁断したりしてだいたいの形を作り、そのあとは彫刻家の作業ように丹念に削っていきます。最後に素材感をだす為に着色していきます。

 何といっても私がすごいと感じたのはこの着色作業で、大理石もブロンズも鉄も本物の質感が十分に再現されていて、ずっしりとした重みまで感じられるほどなのです。
 実はこの着色技術は、舞台美術だけではなく、イタリアでは一般的に使われている職人技術のようです。
 例えば、私が以前暮らしていたアパートの通路の壁。私は何年も「綺麗な色の大理石」だと思っていたのですが、本当は、職人が「綺麗な色で描いた大理石」だったのです。
 壁の一部の塗り替え作業で発覚したこの事実に、初めは驚いただけでしたが、作業を見ているうちにその丁寧さとイタリアの職人達の技術水準の高さに感動したものです。

 そして、イタリアが世界に誇れる職人技に、服飾の縫製技術があります。

シェノプラスティカ

Padiglione Caramba /カランバ・パビリオン

 「ラボラトーリ スカラ アンサルド」の舞台衣装仕立て部門です。
 ここに工房を移したことで、いままでの約3倍のスペースを確保できたそうです。生産効率も高くなり、現在では1シーズンに800〜1000着の新しいコスチュームを作りだし、1500着のコスチュームの仕立て直しをしているそうです。
 一口に1000着の新しいコスチュームといっても、もちろん既製服を作るのとは訳が違います。
 
1着1着、演目や役柄に合わせたデザインの度重なる打ち合わせ、素材選び、役者の体型に合わせた立体裁断、お針子たちの縫製、手作業によるデコレーション。1着のコスチュームの仕上げまでの長い工程を考えると、1000着というのは実に驚くべき数字です。

カランバ・パビリオン

 縫製も本当に手が込んでいるし、素材使いも興味深いものが多く、日本の着物の帯地にフランスのアンティークレースを重ねてみたり、見たこともない可愛い木や貝のボタンが縫い付けられていたりして、思わず「どこで探してきたの?」と聞きたくなります。

2つのコスチューム

 一つ面白いことを聞きました。

 「2着全く同じコスチュームを作り、そのうちの1着をぼろぼろにになるまで、破いたり引っ掻いたりすることはよくあるのよ」とガイドの方が言いました。「だって、牢屋からでてきた人や戦場から帰還したひとが、綺麗なジャケットを着ていたらおかしいでしょ」という説明がつき、なるほどと納得。
 「で、どうやってこんなにぼろぼろに」という質問に「これよ!」と出してきたのが Grattugia、チーズのおろし金です。まさにイタリアらしい職人道具でした。

 コスチュームの保管室には、約1400平方メートルの面積に1400の衣装棚があり、年代別、演目別に約6万着のコスチュームが納められているとか。1911年から今日までの280の演目の舞台衣装一式、備品がすべてストックされているそうです。
 ガラスケースを覗いてみると、マリア・カラスなどの有名なオペラ歌手や役者がが実際に着た衣装も綺麗に展示されています。
 華やかな舞台で大活躍したコスチュームたちは、公演が終わると工房内にある洗濯室できれいに洗われ、プレスされ、この衣装保管室で静かに次の出番を待つのです。

Padiglione Visconti/ヴィスコンティ・パビリオン

 このパビリオンには二つのリハーサルルームがあります。演出家や脚本家が打ち合わせをしたり、役者やオペラ歌手などを交えてのリハーサルを行ったりと、日々幅広く利用されています。
 舞台美術や衣装などを持ち込み、本番さながらのリハーサルがくり返し行なわれることもあり、そんな時は有名なオペラ歌手や役者が頻繁に出入りするそうです。

ヴィスコンティ・パビリオン
【Informazione : アクセス&予約】

Laboratori Scala Ansaldo / ラボラトーリ スカラ アンサルド
Via Bergognone,38 20124 Milano
アクセスは、地下鉄M2 S.Agostino 駅かP.ta Genova 駅から、徒歩10分。
または、Duomo広場からトラム(路面電車)14番で約20分。

<見学を希望される方へ>
●見学可能日は火曜日と木曜日のみ
*コスチュームの仕立て部門とヴィスコンティ パビリオンは一般公開していません。

●料金
 25名以下のグループ:100ユーロ(イタリア語ガイド付き)
 25名以下のグループ:120ユーロ(英語、仏語、独語いずれかのガイド付き) 
 個人:お一人 5ユーロ

●時間帯
 グループ 9:00〜12:00、14:00〜16:00
 個人 15:00〜

*グループ、個人ともに事前の予約が必要です。
Tel/02 43353521 Fax/02 463917 (イタリア語、英語)

【Ristorante】
最後に、この工房に訪れた際には是非、同じVia Bergognoneの16番にある「La Tradizionale 」にお立ち寄り下さい。お料理も美味しく、店内も広々として開放感があり、とても居心地のいいレストランです。
La Tradizionale
Illustration : Yoko Sato
 
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